ツイッターでいただいたワード「海中帝国」「覇権争い」をもとに、
創作の世界観を練り練りしたものです。
水で覆われた惑星。
恒星から遠いため表面には氷が張っているが、地熱の影響で内部に海がある。
氷と水の層に阻まれて恒星の光が届かない深海を、二頭の光るクジラが回遊している。


この星の生物は棲息形態により四分される。多い順に:
1.海底各地の火山コロニーに棲む生物
2.クジラの回遊路に棲み周期的に光の恩恵を受ける生物
3.海流に乗りクジラと共に旅する生物
4.氷の下の浅い海で僅かな太陽光を利用する生物


クジラの回遊するルートは長い年月とともにブレるため、同じ場所でも
上記1,2双方の生き物がいる地域がある。やがて、回遊路沿いでは
光をエネルギーにする微生物を食べ、火山地帯では熱水中の鉱物を
エネルギーにする微生物を体内に飼って、双方の環境に適応する種が現れる。
後の人類である。
 
人類は回遊路を中心に広範囲に分布、互いに資源を交換し合う交易文化圏を築いた。
そして海流に乗る生物の利用により回遊路上の他のコロニーとの行き来が可能になり
コロニー同盟が誕生する。クジラの光の届かない地域との交易権を、
回遊路沿いのコロニー間で分配し独占や争いを防ぐ仕組みである。
 
二頭のクジラの回遊路が交差する地点が惑星上に2箇所あり、世界で最も
明るい土地でのみ育つ大型海藻の聖地となる。二大コロニー同盟の成立以降
領土争いが絶えなかったが、北半球と南半球それぞれの交差地点を一つずつ
所有することで決着した。
 


惑星を回遊する二頭のクジラはその光の色から「赤クジラ」「紫クジラ」と呼ばれる。
肉眼ではどちらも白い光だが前者は赤外線、後者は紫外線を多く含むのがその所以。
光量は同程度だが紫クジラの方が若干小さく、泳ぐ速度が速い。
地形条件の違いもあり二つの回遊路には異なる動植物や文化が栄えている。

火山活動がなくクジラの回遊もない地帯は海底の砂漠である。
細々と生きる現地生物のほか、回遊路地帯やその他コロニー地帯での争いから逃れ、
あるいは追放されてきた者が流れ着く地でもある。
そんな彼らでも身震いを起こす辺境が氷の下の浅い海だが、
極寒の極限状況に適応した生物もわずかにいる。

砂漠の奥地には未開の熱水コロニーや海底鉱床が未だあり、二大同盟やその風下に
立つのを良しとしない傘下のコロニー群が探検と開拓を競っている。
コロニー地帯が細長く平等主義的な紫クジラの同盟に対し、赤クジラの同盟は多数の
服属コロニーがあるため資源の確保による地位向上を狙う勢力が多い。


海流に乗ってクジラが移動しているのか、それともクジラの回遊により
海流が発生しているのかは昔から議論のまとであった。
文明発祥以来クジラの回遊路は徐々にずれてきており、今後のルートの変化を
予測ひいては操作しようとする研究が各地で始まっている。
彼らの野望は ルートを思いのままに造成する禁断の技術にある。(完)
 

 

 

イラストに戻る>
 INDEX>>